【「夫のちんぽが入らない」読了】”普通”という呪いに苦しむ女性の”普通”と、夫婦の”愛”のお話。

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こんばんは。重たい話は重たい口調のおーえだまいこです。

私はこの本で「ちんぽ」という単語を一生分以上読みました。
読んで感じたこと考えたことを記事にしたので、読んでいただけると嬉しいです。

 

  
夫のちんぽが入らない (講談社文庫) [ こだま ]

 

 

"普通"だけでいられる人なんて存在しない。


自分が普通ではないということにどれだけ思い悩んだことか。
自分がいかに普通な人間であるということに、どれだけつまらない気持ちになったことか。

”普通”という言葉は矛盾している。「どこにでもあるような、ありふれたこと」
これはどこにでもある、こんなことありふれている、なんて、私たちは世界のどれほどを知ってそう感じているのだろう。

本書を読んで私は、”普通”とは、多くの人が縋り付いたり蹴飛ばしたくなるような偶像であり、形は違えど誰もが持っている鎧なのだろう、と感じた。

 


母から生まれ両親に育てられ学校に通い就職、結婚、子を作り、生活は続く。
世界には男と女がいて、たくさんの人間同士が出会い、別れ、やがてたった1人が生涯の伴侶となる。

このような"普通"を、ヒトは作り上げて来た。高度な社会性を持つ動物ならではの文明。
しかし、皆が持つ"普通"の中にはそれぞれの自分が守りたい部分があるように思う。

 

「子供欲しくないんだけど」と思いながら婚活女子の輪に入って理想の旦那の話をしたり。
学校で友達と楽しく騒いだ日、帰宅して自分の部屋で、心臓を引っ掻き回されるような気分になる内容の小説を読んだり。

 

ほとんどの人がそういう"中身"を持っていて、"普通"で自分を守り、安心して"普通"の人生を送っているのではないだろうか。


ただ、その守りたい部分が「"普通"を破り捨て、ありのままを受け入れられたい」と訴えることもある。
一方で、"普通"を捨てて中身だけで生きようとは思えない。中身は守っておきたい。


普通になれないことに苦しむのは、至極普通なことなのだと思う。
誰しもが色々な形の"普通"の鎧着て、普通じゃ無いと思う部分を守って生きてる気がする。


そういう、自分の中で守っている部分を曝け出す作品には、安心感のような心地良さがある。
今を生きるために必死に考えて、身の回りの人間や昨日までの自分と向き合う人は、自分ひとりじゃないんだ。

 

力強い勇気を以って綴られた「ちんぽ」に、とても励まされた。

 

愛情は目に見える関係では測れないのに、見える部分で感じようとしてしまう。


ひとりの相手とずっと一緒に生活することが愛の証明にはならないし、子を授かり家庭を築くことは、生物学上で言うところの「本能」に基づいている。

 

「愛してる」と言われることが愛されているという証明ではない。
相手のことを全て知り、受け入れたと思うことが愛していることの証明にはならない。

 

愛とは、2人の関係の間でお互いが薄ぼんやりと感じ取れているであろう、とてつもなく曖昧な優しさのことだと思う。

 

いくら会話をし触れ合ったところで、それはあくまでもコミュニケーションに過ぎない。
その中でぼんやりとした暖かさを感じること、そしてそれを大切に、時たま無意識に渡したり受け取ったりする事が「愛し合う」ということなのではないかと思う。

 

そもそも愛に証明は必要なのかも考えもので。
でもそれは、人間にはどうしても必要なのかもしれない。

 

人間は他人との関係性が多様すぎるので、他人と関わる上で「この人とはこう」「あの人とはこう」という区別をつける。

「この人」に「あの人」との関係性を知ってもらおうとする時、
「この人」たちに「あの人」との愛を証明しようとする時、

やはり「目に見えるもの」「言葉で説明できること」が必要になってしまう。
そして、自分が感じている優しさが間違いなくあるものなのか確証が欲しいとき、自分に対しても「この人」たちと同じように、見える何かで「あの人」との愛を証明しようとしてしまう。

承認欲求のひとつとして、自分が見ているものを相手や他人が同じように見ているかどうか、確認せずにはいられないのかもしれない。

 

そういう時に、迷わず明確に言葉や態度で愛を伝えられることは、紛れもなく「愛している」ということなのだと思う。

 

「あんたの産む子が悪い子に育つはずがない」
「そうですか?僕はこんな心の純粋な人、見たことがないですよ」
−本書p.179より

 

「この先もふたりだけの生活でいいじゃない」と言う夫に迷わずついてゆこうと思う。
−本書p.183より

 

「ちんぽ」には、"私"と"夫"の間の目に見えない愛情とそれの証明が、たしかに綴られていた。

 

読んでよかった。本当に良かった。


感情移入する能力が圧倒的に乏しいのかわかりませんが、"私"の葛藤や苦しみを読んでも「"私"大変だな、辛いな」「"私"最終的に前が拓けて嬉しいな」とはなりませんでした。

ただ、"私"の物語を読んで、私は私で苦しくなり、遣る瀬無い気持ちが溢れ、少し泣きました。読み終えて前が明るくなり、とても勇気が湧きました。

なので、本の内容の感想よりも、読んで感じたこと、考えたことを書きました。

 

「普通」とか「愛情」について日々物思うことがある人は、是非読んでみてください。

 


夫のちんぽが入らない (講談社文庫) [ こだま ]


夫のちんぽが入らない(1) (ヤンマガKCスペシャル) [ こだま ]

↑漫画版もあります。